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「憲法九条、一項二項を保持して自衛隊を明記」目的無き九条改憲案の意味とは?

安倍晋三総理大臣の不思議な改憲案

今回安倍総理が表明した改憲について、なぜ安倍総理が改憲を求めるのかを論理的に考えていく。

 

憲法とは何か

近代立憲主義の立場から

憲法とは何か、という問いに対して、近代立憲主義の立場から答えるのであれば、それは権力を縛るものである、ということになるだろう。

一項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。


二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

上記の日本国憲法九条・一項及び二項は、国家権力に対して、戦力を保持する、という権利を禁じている。

 

安倍総理の見解

ところで、安倍総理はこのように答弁している。

憲法とは、国家権力を縛るだけのものではなく、理想とする国の形を示すもの

平成26年2月3日 衆院予算委員会

この答弁は大変批判されたが、部分的には正しい。

少なくとも、九条の中にある「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」は理念であり、理想主義を示すものだ。

 

憲法九条とは「交戦権や戦力の保持を国家権力に禁ずる」という近代立憲主義の機能と、「理念としての平和探求の宣言」の両方をその条文で示している、といえるだろう。

 

安倍総理の改憲案とは

安倍総理のビデオメッセージにおける発言を見てみよう。

www.huffingtonpost.jp

首相は改正項目として9条を挙げて「1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むという考え方は国民的な議論に値する」との考えを示した。

 

憲法9条について、首相は「多くの憲法学者や政党には自衛隊を違憲とする議論が今なお存在する。あまりにも無責任だ」として、自衛隊の根拠規定を9条に追加すべきとの考えを強調

引用したとおり、安倍総理は「自衛隊が違憲であるとの議論が存在する」ので「九条の一項及び二項を保持したまま、根拠となる条文を書き込む」と述べている。

 

自衛隊の違憲論とは

自衛隊の違憲論とは、下記の九条二項の条文を根拠にしている。

二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

これは、素直に読めば、あらゆる種類の武力の保持を禁じているように見える。

 

「自衛隊は自衛のための必要最小限度の戦力であるから、これは憲法上禁じられた『戦力』ではないのだよ」というのが政府の見解である。

それに対して、「いや、『陸海空軍その他の戦力は保持しない』と書いてあるんだから違憲だろ」というのが違憲論者の意見(わかりづらい)である。

 

政府見解は下記の質問主意書にもある。

防衛省・自衛隊:軍隊、戦力等の定義に関する質問に対する答弁書

憲法第九条第二項は「陸海空軍その他の戦力」の保持を禁止しているが、これは、自衛のための必要最小限度を超える実力を保持することを禁止する趣旨のものであると解している。

自衛隊は、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織であるから、同項で保持することが禁止されている「陸海空軍その他の戦力」には当たらない。

これは、「ガラス細工」とも表される異例な論理構成ではある。ただ、元々自衛隊は警察予備隊として発足している。常識的に考えて、九条二項が警察組織のような実力組織を禁じているとは考えづらいので、その延長線上に自衛隊が存在する、というのが基本的な概念だろう。

 

この見解は、共産党を除くすべての党が受け入れている。

 

二項を残したまま自衛隊を明記する意味

憲法とは、先に述べたとおり基本的には権力を縛るものである。つまり、「戦力を保持してはいけない」という権力に対する禁止事項が立憲主義的な意味での憲法の骨子である。

しかし、日本国政府は一貫して「自衛隊は違憲ではなく、九条二項は自衛隊を禁止しているものではない」と述べてきたわけだ。

仮に安倍総理、あるいは現在の内閣がその政府見解を引き継いでいるのであれば、憲法上自衛隊を位置づける必要はまったくない。

 

これは、例えば海上保安庁や警察庁などと比較してみればいいだろう。海上保安庁はしきしま型巡視船など、兵装を有した船舶を保有している。しかし、例えば憲法上に海上保安庁の存在を明記しなければならない、という議論は起きたことが無いはずだ。警察も銃器を保有しているが、同様だ。

つまり、武力を持った実力組織そのものは憲法九条が禁ずるものではなく、あくまでその程度によって違憲か合憲かが決まる、と考えるのが合理的である。

 

例えば新規で航空母艦を導入したり、他国の紛争に直接関与し、武力を行使すれば当然九条一項・二項に照らして違憲ではないか?という議論は出てくるはずだ。

つまり、安倍総理が言う「自衛隊を違憲とする無責任な議論」は、九条二項という根本の条文が変化しない限りは、自衛隊の行動や装備いかんによってあらゆる場面で起こりうるのである。

 

国防軍の創設をうたった自民党改憲草案

賛否は別にして自民党改憲草案による「国防軍の創設」の方が、論理はシンプルである。

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。

 

前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

 

我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

自衛隊を軍隊として位置づけ、自衛権を明記し、九条二項を削除する。上記の文面は少なくとも、九条二項を残したまま自衛隊を明記する、という奇怪な案より遥かに明確だ。

この案であれば、現状懸念されている軍事裁判所の存在や、軍法の設定なども行うことが出来るわけで、憲法改正の意味は通る。

 

安倍総理の狙いとは?

さて、まとめるとこのようになる。

  • 自衛隊違憲論は、戦力不保持をうたった九条二項が原因
  • 自衛隊は戦力ではない、というのが政府の公式見解
  • その見解を保持する限り改憲は不要
  • 仮に憲法上位置づけたとしても、戦力不保持との齟齬は常に残る可能性がある
  • 憲法上、自衛隊をどのように位置づけても九条一項・二項の制約は残る

このように、一項と二項を残したまま自衛隊を三項で位置づけることは、一見特に理由があるように見えない。


戦後、一貫して自衛隊の合憲論を唱えてきた自民党が、まるで違憲論に一理があるかのような形で改憲するのは大変不思議な事だ。100%合憲ならば改憲などする必要が無いはずだろう。

石破茂氏の発言を見る限り、党内でもコンセンサスが取れていないように見える。

news.livedoor.com

 

とすると、このような形の改憲の本質的な価値とは、たったひとつ「九条の条文を変更すること」そのものにあるのではないか?と考えざるを得ない。

いや、これはあくまで邪推である、というなら、九条一項・二項を保持したまま自衛隊を憲法上位置づけることで可能になることは何か、ぜひ国民に説明いただきたい。

 

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